卒業アルバム
その子はにっこりと微笑んで卒業アルバムを見せてくれた。
「これが私の彼氏よ」
桜貝に良く似た色のマニュキアで染めた指先が一人の少年を指差した。
黒の詰襟に少し馴染んだ顔。
「彼のほうから言ってくれたの。好きだって」
この子が好きになるのもしょうがない。
優しそうだね、と言うと彼女は嬉しそうに笑った。
「ええ。凄く優しい人なのよ」
マニュキア色に頬を染めてうつむき加減に教えてくれた。
「でも、別れちゃった。この間」
えへへ、と小さく笑って彼女はパタン、とアルバムを閉じた。
「この前の火曜日。びっくりしちゃって寝れなかったわ」
おかげで寝不足。
もっと前もって別れようって言う素振りを見せてくれてたら良かったのに。
彼女は、ちょっ、と舌を鳴らした。
怒ってる?と尋ねると、
野暮ね、と笑われた。
「だって凄く当たり前の理由なんだもん。拍子抜けするくらい、納得しちゃった」
からん、とコップの氷が音を立てた。
つっと雫の形の水晶が、桜色の頬を滑った。
「大好きよ、今でも。ええ、大好きよ」
もう要らない、と言われても。
夏の萌黄色のワンピースが良く似合う強い強い女の子。
私よりもずっと小柄な女の子。
水晶色の輝きをほんの少し見せてくれた。
卒業アルバムに載せて。
終