私が死ぬ日
電話がかかってきた。
「はい」
「明後日の六時十五分、君は死ぬが、いいかね?」
とても穏やかだった。
その声も、私も。
そんな突拍子も無いことなのに。
「はい、分かりました」
「わしの孫達も見たいといっているが、いいかね?」
「ええ。どうぞ」
「それでは」
「はい」
お母さんが私に誰だったの、と尋ねる。
「私、明後日の六時十五分に死ぬんだって」
「そう」
「うん」
私は一つ伸びをして、冷めかけたお茶をもって自分の部屋に戻った。
宿題、どうしようと思っていた。
私が死ぬ日になった。
今までとかわらない。
お母さんに起こされて、眠いまま朝ご飯を食べる。
ミアが押しいれの中で埃で真っ白になって出てきた。
それに少しびっくりする。
カビかな?
ミアがにゃーんと鳴いて足の間をくぐって行った。
鳥の小屋を掃除して水と餌を入れ替えた。
その後はストーブの前でごろごろして、本を読んだりしていた。
結局、宿題も終わらせる事は出来なかった。
空が綺麗に赤くて、日が暮れて始めていた。
お母さんが夕飯の準備を始めている。
そろそろかな、と思っていた。
遺言書かなくちゃ。時間は五時。あと一時間ちょい。
誰に何を書こうか、悩む。
「ご飯はどうするの?」
「食べるよ」
「分かった」
焼き魚と味噌汁、ごはんだった。お茶を飲んで上に行く。
五時十五分。
まだ時間たってないのかな。
何を書くか悩んでいると、ベランダの窓がノックされた。
外はもう真っ暗で、白い服と長い髭のお爺さんがノックしていた。
手には長い柄のついた大きな月の形をした鎌が握られていた。
その横には大きな白い鳥、三、四歳ぐらいの男の子と女の子が居た。
「まだ、五時十五分ですけど」
私は時計を見ながら言った。
「いや、もう六時十五分だよ」
時計が、五時十五分で止まっていた。
お母さんが止めたんだろうか?
「そうですね。でも、まだ遺言を書いてないんです。少し待ってもらえませんか?」
「あまり待てないのだが」
「分かりました」
部屋はいつも通り汚くて、私は物を踏まないようにしながら机に近寄った。
掃除しなくちゃ、って思ってたんだっけ。
でも時間が無い。
どうせ、全部終わった後でお母さんが片付けてしまうだろう。
思えば書くことが無かったから「ありがとう」、と書いて机の上におく。
「お母さん」
下に向かってお母さんを呼ぶ。
「時間らしいよ」
トトトトっといつも急ぎ足の時に立てる足音が階段を昇ってくる。
「いいかい?」
お爺さんが尋ねる。私は窓辺に立ってガラスに映った部屋を見ていた。
お母さんの顔が見えた。
「はい」
銀の刃が体の中をすり抜ける。急に軽くなる。
あ、鳥に葉っぱをあげてない。
食器を下げるのを忘れてた。
……何だ。やる事はいっぱいあったんだ……。
終