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ふと何かの気配に気づいた
目を開けると誰もいない
ただ向かいの窓から降り注ぐ
金の粉の中に蝶が舞っていた

ここには誰も居ない
小さな蝶がひらひらと舞い続ける

ここには誰も居ない
蝶を見ているのは私だけ

ここには誰も居ない

蝶と私だけ
壊れかけたタービンが小さく甲高い声を上げるのが聞こえた

何を求め彷徨うのか

蝶と私を乗せて電車はゆっくりと動き始める
ゆるやかに加速する景色
何を求め彷徨うのか

分かるかもしれない
分からないかもしれない

黒い蝶 黒い蝶
私と硝子に閉じ込められた
黒い蝶 黒い蝶

何を求め彷徨うのか

分かるかもしれない
分からないかもしれない。



金の粉は相変わらず
強く弱く降り注ぐ



あなたっておせっかいだわ。
蝶が言った気がした
だが蝶は言葉を終えぬ間にもうとした風に
さらわれた

恨みなさいませ
恨みなさいませ

金の粉に舞った蝶。
お前は帰るのだ
暗い箱の中でなく
明るい風の中へ

恨みなさいませ
恨みなさいませ

もう姿のない蝶
私ももう帰るから
お前の軌跡から目をそらし
静かな人の波へと
私も風に身を任せる

もうとした風に身を

甲高いタービンの音は、小さくなった
金の粉はただただ窓から降り注ぐ


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