イレースとオリヴィア
お店の前を掃除するのは私の仕事。
いつもは店長のお店、魔法道具屋『だんでぃ・らいおん』だけだけど、ここしばらくはお隣の日用雑貨店『花冠』の前も掃く日が続いている。
お隣の店主、イレースさんが商品の買い付けに行ってしまっているからだ。
この国ファルデリアと隣国サグルドの国境近辺の質のいい品を仕入れてこれるのは、サグルド人のイレースさんならではだろう。
そのこともあって、『花冠』は同じ時に開店している『だんでぃ・らいおん』よりずっと繁盛している。
『だんでぃ・らいおん』に住み込んでいる私も時々、お手伝いに行くくらいだ。
帳面のつけ方も教えてくれたのもイレースさんだしね。
艶やかな黒髪、紫水晶の瞳に優しい笑顔のイレースさんは私の憧れだ。
早く帰ってこないかな。
「あら」
ほうきの弾力にすこしよろけたとき、肩を柔らかな感触で支えられた。
懐かしく暖かなハーブの香りに少し低い声。
「イレースさん!」
振り返るとやっぱりイレースさんの笑顔がそこにあった。
「お帰りなさい!」
「ただいま、オルヴちゃん」